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|殺劫(シャーチェ)チベットの文化大革命
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【本書内容】
チベット「封印された記憶」の真実――。
一九六六年から十年間、チベット高原を吹き荒れた文化大革命の嵐は、仏教王国チベットの伝統文化と信仰生活を完膚なきまでに叩き壊した。現在も続くチベット民族の抵抗は、この史上まれな暴挙が刻印した悲痛な記憶と底流でつながっている。長らく秘められていた「赤いチベット」の真実が、いま本書によって四十余年ぶりに甦る。
本書は、チベットにおけるプロレタリア文化大革命(一九六六〜一九七六年)の写真・証言集であり、台北の大塊文化出版股份有限公司から二〇〇六年二月に発行された『殺劫』(全二九二頁)の全訳である。原著は、北京在住のチベット人女性作家、ツェリン・オーセル(茨仁唯色)氏が、父親のツェリン・ドルジェ(澤仁多吉)氏の撮影した写真を基に執筆・編集したもので、本文は写真解説や関係者へのインタビューで構成されている。
原著の題名「殺劫(シャーチエ)」の「劫」には、「強奪する」、「脅す」、「極めて長い時間」などの意味がある。仏教語には「永遠」を意味する「劫波ごうは(劫簸)」という言葉があり、これは梵語「kalpa」の音訳である。また、「万劫不復まんごうふふく(永遠に回復できない)」や「劫数ごうすう(厄運、避けられない災難)」という熟語もある。さらに、「劫灰」という言葉があるが、「戦いによって灰になること」、「劫火の時に生ずる灰」、「灰となって消え滅びる」といった意味である。例えば、唐詩の中に「劫灰飛尽古今平(劫灰飛び尽くして古今平らかなり)」(李賀「秦王飲酒」)という詩句があるが、世界を焼き滅ぼした劫火の余灰が飛び散り、昔と今とが時間を超越して一つになっているといったありさまを形容している。【訳者記】
文革研究の空白を埋める――。
文革は共産党の一つの不都合な出来事であり、チベットはもう一つの不都合な問題である。したがって、チベット文革は二重のタブーとなり、なおさら触れてはならないものになっている。……オーセルの父親が撮影したチベット文革の写真は極めて特別な意義を持っていると言える。……オーセルがこれらの写真をめぐって取り組んだ長期間の調査と執筆がようやく完了した。……これにより、文革研究におけるチベットの部分も、もはや空白ではなくなった。 (王力雄「序」より)
オーセルさんの不屈の姿勢に対する共感――。
周知のように、中国における言論統制は相変わらず厳しい。しかし、困難な環境にもめげず、ペンの力を信じて中国社会の様々な矛盾や不正と戦っている多くの知識人がいることを、私は長年の現地取材体験を通じてよく知っている。オーセルさんは疑いなく、そうした勇気と良識を備えた知識人の一人である。ジャーナリストもペンの力だけが頼りだ。オーセルさんの不屈の姿勢に対する共感こそが、何にも増して『殺劫』翻訳の推進力となったことを最後に記しておきたい。 (藤野 彰 訳者あとがきより)
【著者・訳者紹介】
■ツェリン・オーセル(茨仁唯色、Tsering Woeser)
1966年、文化大革命下のラサに生まれる。原籍はチベット東部カムのデルゲ(徳格)。1988年、四川省成都の西南民族学院(現・西南民族大学)漢語文(中国語・中国文学)学部を卒業し、ラサで雑誌『西蔵文学』の編集に携わる。主な作品に詩集『西蔵在上』(青海人民出版社、1999年)、散文集『名為西蔵的詩』(2003年に『西蔵筆記』の書名で花城出版社から出版後、発禁処分となり、2006年に台北の大塊文化出版股份有限公司から再発行)、旅行記『西蔵:絳紅色的地図』(台湾・時英出版社、2003 年)など。2006年、大塊文化出版股份有限公司から、本書『殺劫』と、チベット文革体験者のインタビュー集『西蔵記憶』を出版。「著述とは祈ることであり、巡り歩くことであり、証人になることである」をモットーとする。
■藤野 彰(ふじの・あきら)
1955年、東京生まれ。78年、早稲田大学政治経済学部卒。同年、読売新聞社入社。86〜87年、中国政府奨学金留学生として山東大学留学。上海特派員、北京特派員、シンガポール支局長、国際部次長などを経て中国総局長(在北京)を2度務める。中国駐在は通算11年。2006年から東京本社編集委員(中国問題担当)。主な著書に『嘆きの中国報道――改革・開放を問う』(亜紀書房)、『現代中国の苦悩』(日中出版)、『臨界点の中国――コラムで読む胡錦濤時代』(集広舎)、『現代中国を知るための50章【第3版】』(明石書店、共編著)、『上海・長江経済圏Q&A100』(亜紀書房、共編著)、『中国環境報告――苦悩する大地は甦るか 増補改訂版』(日中出版、編著)など。訳書に『わが父・小平「文革」歳月(上下)』(中央公論新社、共訳)、『朱鎔基――中国を変える男』(日中出版)。
■劉燕子(リュウ・イェンズ)
作家、現代中国文学者。中国北京生まれ。湖南省長沙で育つ。1991年、留学生として来日し、大阪市立大学大学院(教育学専攻)、関西大学大学院(文学専攻)を経て、現在、関西の複数の大学で非常勤講師。邦訳書に『黄翔の詩と詩想』(思潮社)、『温故一九四二』(中国書店)、『中国低層訪談録―― インタビューどん底の世界』(集広舎)、『ケータイ』(桜美林大学北東アジア総合研究所)、中国語共訳書に『家永三郎自伝』(香港商務印書館)などがあり、中国語著書に『這条河、流過誰的前生與後世?』など多数。
●目次序 ツェリン・オーセル
序 王力雄
写真について ツェリン・オーセル
日本の読者へ――日本語版序 ツェリン・オーセル
第一章 「古いチベット」を破壊せよ――文化大革命の衝撃
1 やがて革命が押し寄せてくる
2 ジョカン寺の破壊
「四旧」のシンボル/ラサ紅衛兵の第一次行動/ジョカン寺はいかに壊されたか/内地からチベット入りした紅衛兵/ジョカン寺はどれだけ破壊されたか/いったい誰に罪があるのか/破壊後のジョカン寺 3 「牛鬼蛇神」のつるし上げ
「遊闘」の隊列が進む/糾弾される転生僧/人倫の崩壊/チベットの「牛鬼蛇神」/十人十色の積極分子/恐るべき居民委員会
4 改名の嵐
「封建的」とされたチベット名/パルコルは「立新大街」に/「人民公園」になったノルブ・リンカ/チャクポ・リ変じて「勝利峰」
第二章 造反者の内戦――「仲の良し悪しは派閥で決まる」
二大造反派
「造総」か「大連指」か/両派は実のところ似た者同士/血と炎の対決/事件の結末
第三章 「雪の国」の龍――解放軍とチベット
1 軍事管制
社会秩序の回復/チベットにおける解放軍/軍隊内部の闘争/威風堂々たる「軍宣隊」
2 国民皆兵
第四章 毛沢東の新チベット――「革命」すなわち「殺劫」
1 革命委員会
2 人民公社
3 新たな神の創出
第五章 エピローグ――二〇年の輪廻
神界の輪廻
参考文献
解説 チベットの文化大革命――現在を照射する歴史の闇 藤野 彰
訳者あとがき
【書評・その他メディアへの掲載】
・週刊東洋経済
■撮られていた文化大革命下のチベット■
この本を手にするとユダヤ人ローマン・ヴィシュニアックのことを思い出す。第2次世界大戦前夜の欧州で、ナチスのユダヤ迫害の光景を4 年間密かに撮りつづけた写真家だ。
本書は、かつて中国人民解放軍だったチベット人士官が文化大革命の10 年を趣味のカメラで記録したもの。没後、文筆家の娘が公開、彼女が編纂し、はじめに台湾で出版された。文革の写真は珍しくないが、チベットのそれは見たことがない。造反派の若者が破壊する寺院、仏像や法具、経典は焚き火に、槍で武装したあどけない少女。「牛鬼蛇神」とされた僧侶や旧領主、役人、知識人、商人らが、それぞれの衣装を身にまとわされてつるし上げをくっている。罵声をかけ嘲笑するのは漢人だけでなくチベット人だ。毛沢東の肖像画をかかげ行進するデモ隊の後にはチベット高原の霊峰がそびえる。昨年頻発した漢族支配への抵抗のマグマは、この風景のなかに孕まれているのだろう。
チベットの二重の悲劇がそこに視える。
本書は残された写真をただ編集したものではない。父の記憶と格闘するかのように、娘はそこに映っている紅衛兵や幹部、とくに「革命大衆」から批判され傷ついた生存者を探しあて、その四十数年後の証言を記録した。全体に写真の小さいのが気になるが、事実の重みには圧倒される。
「殺劫」とは長時間、強奪、脅すという意味で、劫火の余灰が飛び散り、昔と今が時間を超越し一つになることだと、訳者はいう。エリ・ヴィーゼルはユダヤの惨禍を追憶するヴィシュアニックの写真集に「記憶の敗北をもたらす忘却を決してゆるさないこと」と記した。中国現代史の奇跡の映像録である。
評者:写真家 中川道夫
週刊東洋経済 2009/12/19
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【本書内容】
チベット「封印された記憶」の真実――。
一九六六年から十年間、チベット高原を吹き荒れた文化大革命の嵐は、仏教王国チベットの伝統文化と信仰生活を完膚なきまでに叩き壊した。現在も続くチベット民族の抵抗は、この史上まれな暴挙が刻印した悲痛な記憶と底流でつながっている。長らく秘められていた「赤いチベット」の真実が、いま本書によって四十余年ぶりに甦る。
本書は、チベットにおけるプロレタリア文化大革命(一九六六〜一九七六年)の写真・証言集であり、台北の大塊文化出版股份有限公司から二〇〇六年二月に発行された『殺劫』(全二九二頁)の全訳である。原著は、北京在住のチベット人女性作家、ツェリン・オーセル(茨仁唯色)氏が、父親のツェリン・ドルジェ(澤仁多吉)氏の撮影した写真を基に執筆・編集したもので、本文は写真解説や関係者へのインタビューで構成されている。
原著の題名「殺劫(シャーチエ)」の「劫」には、「強奪する」、「脅す」、「極めて長い時間」などの意味がある。仏教語には「永遠」を意味する「劫波ごうは(劫簸)」という言葉があり、これは梵語「kalpa」の音訳である。また、「万劫不復まんごうふふく(永遠に回復できない)」や「劫数ごうすう(厄運、避けられない災難)」という熟語もある。さらに、「劫灰」という言葉があるが、「戦いによって灰になること」、「劫火の時に生ずる灰」、「灰となって消え滅びる」といった意味である。例えば、唐詩の中に「劫灰飛尽古今平(劫灰飛び尽くして古今平らかなり)」(李賀「秦王飲酒」)という詩句があるが、世界を焼き滅ぼした劫火の余灰が飛び散り、昔と今とが時間を超越して一つになっているといったありさまを形容している。【訳者記】
文革研究の空白を埋める――。
文革は共産党の一つの不都合な出来事であり、チベットはもう一つの不都合な問題である。したがって、チベット文革は二重のタブーとなり、なおさら触れてはならないものになっている。……オーセルの父親が撮影したチベット文革の写真は極めて特別な意義を持っていると言える。……オーセルがこれらの写真をめぐって取り組んだ長期間の調査と執筆がようやく完了した。……これにより、文革研究におけるチベットの部分も、もはや空白ではなくなった。 (王力雄「序」より)
オーセルさんの不屈の姿勢に対する共感――。
周知のように、中国における言論統制は相変わらず厳しい。しかし、困難な環境にもめげず、ペンの力を信じて中国社会の様々な矛盾や不正と戦っている多くの知識人がいることを、私は長年の現地取材体験を通じてよく知っている。オーセルさんは疑いなく、そうした勇気と良識を備えた知識人の一人である。ジャーナリストもペンの力だけが頼りだ。オーセルさんの不屈の姿勢に対する共感こそが、何にも増して『殺劫』翻訳の推進力となったことを最後に記しておきたい。 (藤野 彰 訳者あとがきより)
【著者・訳者紹介】
■ツェリン・オーセル(茨仁唯色、Tsering Woeser)
1966年、文化大革命下のラサに生まれる。原籍はチベット東部カムのデルゲ(徳格)。1988年、四川省成都の西南民族学院(現・西南民族大学)漢語文(中国語・中国文学)学部を卒業し、ラサで雑誌『西蔵文学』の編集に携わる。主な作品に詩集『西蔵在上』(青海人民出版社、1999年)、散文集『名為西蔵的詩』(2003年に『西蔵筆記』の書名で花城出版社から出版後、発禁処分となり、2006年に台北の大塊文化出版股份有限公司から再発行)、旅行記『西蔵:絳紅色的地図』(台湾・時英出版社、2003 年)など。2006年、大塊文化出版股份有限公司から、本書『殺劫』と、チベット文革体験者のインタビュー集『西蔵記憶』を出版。「著述とは祈ることであり、巡り歩くことであり、証人になることである」をモットーとする。
■藤野 彰(ふじの・あきら)
1955年、東京生まれ。78年、早稲田大学政治経済学部卒。同年、読売新聞社入社。86〜87年、中国政府奨学金留学生として山東大学留学。上海特派員、北京特派員、シンガポール支局長、国際部次長などを経て中国総局長(在北京)を2度務める。中国駐在は通算11年。2006年から東京本社編集委員(中国問題担当)。主な著書に『嘆きの中国報道――改革・開放を問う』(亜紀書房)、『現代中国の苦悩』(日中出版)、『臨界点の中国――コラムで読む胡錦濤時代』(集広舎)、『現代中国を知るための50章【第3版】』(明石書店、共編著)、『上海・長江経済圏Q&A100』(亜紀書房、共編著)、『中国環境報告――苦悩する大地は甦るか 増補改訂版』(日中出版、編著)など。訳書に『わが父・小平「文革」歳月(上下)』(中央公論新社、共訳)、『朱鎔基――中国を変える男』(日中出版)。
■劉燕子(リュウ・イェンズ)
作家、現代中国文学者。中国北京生まれ。湖南省長沙で育つ。1991年、留学生として来日し、大阪市立大学大学院(教育学専攻)、関西大学大学院(文学専攻)を経て、現在、関西の複数の大学で非常勤講師。邦訳書に『黄翔の詩と詩想』(思潮社)、『温故一九四二』(中国書店)、『中国低層訪談録―― インタビューどん底の世界』(集広舎)、『ケータイ』(桜美林大学北東アジア総合研究所)、中国語共訳書に『家永三郎自伝』(香港商務印書館)などがあり、中国語著書に『這条河、流過誰的前生與後世?』など多数。
●目次序 ツェリン・オーセル
序 王力雄
写真について ツェリン・オーセル
日本の読者へ――日本語版序 ツェリン・オーセル
第一章 「古いチベット」を破壊せよ――文化大革命の衝撃
1 やがて革命が押し寄せてくる
2 ジョカン寺の破壊
「四旧」のシンボル/ラサ紅衛兵の第一次行動/ジョカン寺はいかに壊されたか/内地からチベット入りした紅衛兵/ジョカン寺はどれだけ破壊されたか/いったい誰に罪があるのか/破壊後のジョカン寺 3 「牛鬼蛇神」のつるし上げ
「遊闘」の隊列が進む/糾弾される転生僧/人倫の崩壊/チベットの「牛鬼蛇神」/十人十色の積極分子/恐るべき居民委員会
4 改名の嵐
「封建的」とされたチベット名/パルコルは「立新大街」に/「人民公園」になったノルブ・リンカ/チャクポ・リ変じて「勝利峰」
第二章 造反者の内戦――「仲の良し悪しは派閥で決まる」
二大造反派
「造総」か「大連指」か/両派は実のところ似た者同士/血と炎の対決/事件の結末
第三章 「雪の国」の龍――解放軍とチベット
1 軍事管制
社会秩序の回復/チベットにおける解放軍/軍隊内部の闘争/威風堂々たる「軍宣隊」
2 国民皆兵
第四章 毛沢東の新チベット――「革命」すなわち「殺劫」
1 革命委員会
2 人民公社
3 新たな神の創出
第五章 エピローグ――二〇年の輪廻
神界の輪廻
参考文献
解説 チベットの文化大革命――現在を照射する歴史の闇 藤野 彰
訳者あとがき
【書評・その他メディアへの掲載】
・週刊東洋経済
■撮られていた文化大革命下のチベット■
この本を手にするとユダヤ人ローマン・ヴィシュニアックのことを思い出す。第2次世界大戦前夜の欧州で、ナチスのユダヤ迫害の光景を4 年間密かに撮りつづけた写真家だ。
本書は、かつて中国人民解放軍だったチベット人士官が文化大革命の10 年を趣味のカメラで記録したもの。没後、文筆家の娘が公開、彼女が編纂し、はじめに台湾で出版された。文革の写真は珍しくないが、チベットのそれは見たことがない。造反派の若者が破壊する寺院、仏像や法具、経典は焚き火に、槍で武装したあどけない少女。「牛鬼蛇神」とされた僧侶や旧領主、役人、知識人、商人らが、それぞれの衣装を身にまとわされてつるし上げをくっている。罵声をかけ嘲笑するのは漢人だけでなくチベット人だ。毛沢東の肖像画をかかげ行進するデモ隊の後にはチベット高原の霊峰がそびえる。昨年頻発した漢族支配への抵抗のマグマは、この風景のなかに孕まれているのだろう。
チベットの二重の悲劇がそこに視える。
本書は残された写真をただ編集したものではない。父の記憶と格闘するかのように、娘はそこに映っている紅衛兵や幹部、とくに「革命大衆」から批判され傷ついた生存者を探しあて、その四十数年後の証言を記録した。全体に写真の小さいのが気になるが、事実の重みには圧倒される。
「殺劫」とは長時間、強奪、脅すという意味で、劫火の余灰が飛び散り、昔と今が時間を超越し一つになることだと、訳者はいう。エリ・ヴィーゼルはユダヤの惨禍を追憶するヴィシュアニックの写真集に「記憶の敗北をもたらす忘却を決してゆるさないこと」と記した。中国現代史の奇跡の映像録である。
評者:写真家 中川道夫
週刊東洋経済 2009/12/19






